目に砂

人生の人生

ゲーム感想:even if TEMPEST 宵闇にかく語りき魔女

語りしじゃないの? タイトルの文法これ本当にあってるやつ? 古文とかもうわすれちゃって自信ないけどどうにも違和感がある……英語の部分もおかしいよねこれ。なんの意図があるのかクリアした今もわからずにいます。

なおネタバレを含む感想ですし、それなりに腐しているとも思います。

 

私がインターネット掲示板を見ていたころに生息していたスレッドで名前がちょいちょい出ていたのでセールの時に買っていたのです。乙女ゲーで有名なボルテージが出しているし恋愛要素もあるけど乙女ゲーとは銘打ってないみたいなそういう。なんか続編が出るようなのでセールだったみたい。なんならあらすじも登場人物もわからない状態で買いました。キャストもスタッフもエンドロールまで不明。ギャンブル……!

 

主人公は貴族の家に生まれ、幼くして母を亡くしました。父は後妻を迎えましたがこの後妻がなんでか主人公に厳しく、きたねえ屋根裏部屋のようなところに幽閉して折檻したりしていました。理由はわからん。腹違いの妹は心配するふりをして虐めようとしてきます。父もカスなので見て見ぬ振りをします。唯一心配してくれていたのは亡き母に大恩があるというメイドひとりなのですが、立場が弱すぎてほとんど手出しできませんでした。で、すっかりボロボロにやつれた主人公に婚約の申し入れがあり、やっと外に出られたので相手のためにも頑張るぞと思っていたら相手がとんだクソ汚職野郎だと知ってしまい、突き出すための証拠を集めていたらバレてなんか魔女裁判にかけられてあっという間に火刑されます。グッバイ人生……と思ったら死後の世界でもないところに放り出され、そこで魔女を自称する男から「死に戻り」の力を与えられて生き延びつつ復讐もするためにあれこれ試すぞー! というところから始まるお話です。こういう表現はあまりよくないと思うけれどなろう系の流行り要素のキメラだなあと。特に思うのが虐げられた姉とカスの妹の組み合わせ。私は姉と毎年誕生日プレゼントを贈りあう仲なので、妹が姉を嫌っている設定の流行ははやく終わってほしいとずっと思っています。なかよし姉妹の時代、来い……!

 

で、結論からいうと私向けのストーリーではなかったです。攻略対象にはいまいちときめかなくて、涙腺にくるシーンもあったんですがそれはすべて主人公の身の回りの世話をしてくれる女性(前述のあらすじで唯一主人公を案じていた年上のメイド)に関わるエピソードのみ。ループするという物語の構造上彼女との関係性だけが一貫して変わらないため、愛着を抱きやすいのです。

 

よかった点とよくなかった点をそれぞれ。まずはよかった点から。魔女裁判がちょっと楽しかったです。最初に火刑されたときのものとは違い、この世界には由緒正しいほうの魔女裁判があるのです。魔女であるかを明らかにするのではなく、魔女が人間に課す試練のようなものです。魔女は人間をこっそり眷属のようなものに変え、夜間に人を殺させます。翌朝、本人を含む5人を容疑者として、人々に誰が本当の眷属かを当てさせるのです。当たっていても間違っていても得票の多かった人物は裁判場の下の火の海に投げ込まれます。眷属が残ってしまった場合はその夜に新たな殺人が起こり、人間と眷属のどちらかがいなくなるまで裁判が繰り返されるんですね。ルートによってさまざまな立場で裁判に関わることができるので(事件も違いますし)常に新鮮な気持ちでした。

 

よくなかった点はいろいろあります。好みの問題もあるんですがそれだけでもないと思うんですよねー。

まず現実世界のさらに現代の用語が出てくる点。作中用語として「死に戻り」が出てくるんですが、これって近年の創作物に登場する概念を指すオタク用語なのでは? こういう表現はあまりよくないと思うのですがこの作品はいわゆるナーロッパが舞台で、文明の進歩段階としては現代に遠く及びません。近代的なオタク用語が用いられることに首を傾げました。これだけなら好みの問題の範疇でしょうけれど、さらには登場人物が用いる比喩のなかに「アメフト」という単語まで出てきます。この世界にはアメリカがあるのかよ! 本作には諸事情により現実世界の知識を持った人物も登場するのですが、問題の発言は正真正銘作中世界の人物ですので。

次に音楽。本作は音楽を担当するのがあのプロキオン・スタジオ(光田康典さんが代表を務める会社ですね)に所属するコンポーザーなのですが、なんでか教会で流れるBGMがバッハの「小フーガト短調」です。パイプオルガンは確かに教会っぽい。とはいえあえてそこでこの選曲でなくてもよかったではないですか。これ音楽の授業で扱われるような名曲ともなるといかにも空想から現実に引き戻される感がありますし、さらにいうと「あなたの髪の毛ありますか?」を思い出す人もいるでしょう。ますます謎の選曲です。これのインパクトが強すぎて詳細を忘れたのですがもう一曲クラシック音楽が使用されていました。悪いとはいいませんがなぜあえてそれにする必要があったのか。

最後に登場人物の役割というか設定。登場人物にひとりだけ「なんでか現実世界から作中世界に転移させられたバスケットボール選手」が登場するのですが、その設定の必要性が特にない。その人のルートの終わりには元の世界に返してあげることになるのですが、なんでか戻ってきます(主人公のためなのですが、それはそれとしてどんな原理で異世界転移キャンセルされたのかは不明のまま)。

全体的に世界観の構築がふんわりしていて、物語に説得力が欠けているのではないかと感じました。その、申し訳ないんだけど本当に流行りの要素をなんとなく継ぎ接ぎしただけみたいな。これ誰が悪いんだろうな。ディレクター?

 

余談ですがルートが独立していない物語の構造、神秘の螺旋(遙か4)を思い出す……! 本作には真ルートこそあれ真のヒーローはいないのでそこは大正解です。